Mr.キューピッド
平和的仕事
「おらーナナト、早くこっちに来いや!」
「ま……待ってください……っ」
空から堕ちてきたっていうのに、何であの人は何事も無かったかのようにピンピンしていられるの?俺なんてフラフラしていろいろと危ないっていうのにさ。
何回も何回も空から堕ちてるんだけれど、毎回疑問に思ってたんだよね。
俺は気持ち悪いと思いつつ滝本さんの隣へやって来て、今回俺達が手伝いをする人物を見る。
(おお……っ、)
そこにいたのは綺麗な顔立ちの女性で、足を怪我しているのか松葉杖が窓付近に置いてあった。
因みに女性は今読書中だ。
「あそこにいる人間の名前は『吉田夏実』。22歳の独身で、1週間前に交通事故に遭った。今回は彼女の出逢いを手伝う。」
「はーい……」
『出逢いを手伝う』って言い方はいつも思うけれどあまりしっくりと来ない。
キューピッドになると、左の小指に赤い糸が見えるようになるのだけれど……キューピッドの仕事はまずその赤い糸が繋がってる相手を探すことから始まる。
『運命の赤い糸』っていうけれど、糸っていうのはもろいから、何かがあればすぐにほどけちゃうんだって。だから俺達キューピッドがほどけないようにしてあげるんだ。
探して見つけた後は、どう2人を引き合わせて赤い糸の『第2段階』へ行かせるのかが次の仕事。
いろいろと手伝いをして、本人同士がちゃんと結ばれたことを確認してから、キューピッドの仕事は初めて終わるんだ。
確認の仕方は至って簡単。第1段階の赤い糸が第2段階の赤い鎖に変わっていたら完了だから。
糸が鎖になる理由は……まだ分かっていないらしい。
「そんじゃ、あの垂れ下がった赤い糸を掴みながら辿るかね。」
滝本さんは透明な体であることを良いことに、彼女の部屋へと侵入する。
俺も滝本さんの次に部屋へと入って、本の上に乗せている左手の小指の赤い糸をを掴んで、グイグイと引っ張る。
繋がっている赤い糸の方向を見ると、病院の中を通っていた。
(院内恋愛かな……)
良かった……1番楽なタイプだ。
「じゃあこいつを辿るぞ。」
「はい。」
俺と滝本さんは千切れない程度の力で引っ張りながら、吉田さんの『運命』の相手がいる場所を探った。
……はっきり言ってこの作業って地味に見えるんだよね、毎回。