Mr.キューピッド

だけど、良い『シナリオ』だなんて思い浮かばない訳で。やっぱりここは直球勝負でいくしかない。
俺は紙というか……太い日記帳とペンを掌から出すと、ページを開いて、今まで書いてきたページの次からサラサラと2人の『シナリオ』を書き始める。
俺を見守っていた滝本さんは俺の書く文字を見て、うんうんと頷いていた。

「成程なー……そう来たか。」

そう来たかとか言われても……普通に考えた結果なんだけれど。

「………よし、」

俺は『シナリオ』を書き終えると、文字を手でなぞりながら文章を読み上げる。

「『私の目の前にいる吉田夏実は趣味をする場を移すべく、今居る建物の下へと向かう。しかしたまたま通り掛かる店にて欲しいものを発見し、購入すべく結ばれし者と接触。
急接近し、次第に2人の仲は深まりあう。』」

読み終えると、文字はキュルキュルと音を立てながら日記帳の中を伝い、目の前にいる吉田さんを目掛けて光を発しながら飛んでいく。
吉田さんの中に文字が全て入り込むと、吉田さんは何かを閃いたような顔をして、俺が書いた通りの行動に移った。
そして、読んでいた本を閉じると、吉田さんはベッドから出て病室を後にする。

「……って、」

あの人松葉杖無しで歩けたんだ?

(心配して損したよ……)

最初から直球勝負にしとくんだったって思った。


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