Mr.キューピッド
この日もいつもと変わらない平凡な日常が過ぎていくんだって思ってた。
勉強して佑音を弄って、一緒に帰って一緒にテレビを見たり宿題したり……そんなごく普通な生活を送るんだって。
「ちょっと佑音、手ぇ痛いよ。」
「五月蝿い!!」
買ってきた肉をしょうが焼きにして食べるのも凄く楽しみだった。
「安売りはね、早めに行って並ぶのが基本なの!!だから早く行くの!!」
佑音と『美味しいね』って言いながら食べるのも、凄く楽しみにしてたんだ。
「ええっ……それなら早く言ってくれればよかったのに。俺走ったよ?」
本当に、もの凄く楽しみにしてた。
「それじゃあ佑音、走ろっか。」
俺は引っ張られていた手を剥がして、今度は俺が引っ張るように佑音の手を引っ張って小走りで前へと進む。
「ちょ……兄さん!」
「ほら、早く行って肉でしょ?」
「分かってるけど……こ、転ぶから1回止ま……」
「……………ん?」
『止まってよ』って言おうとしたんだろうな。
だけど佑音は微妙なところで言葉を切った。
「……どうかしたの?」
俺は立ち止まって佑音に振り返る。
佑音は空を見上げたまま硬直していた。
「そ、」
「そ?」
「空に……」
空中に向かって指を差す佑音。
俺は佑音の指先を追うように上を向く。
「……え!?」
するとそこには、
「何で大きな看板が!?」
俺が冗談で言ったことが現実になって、本当に看板が空を飛んでいたんだ。