Mr.キューピッド


「って言うことが朝起きたんですよ。」

仕事から帰って来た滝本さんに今日の朝の出来事を話す俺。
滝本さんは俺が淹れたコーヒーを飲みながら、優雅に見えないけどまぁ優雅ってことにしておいてあげよう……優雅に聞いてくれた。

「輝明ってアレだろ?ポケットから菓子を取り出してくれるビスケット男。」
「ビスケット男?」

何それ……まだクッキーマンとかの方が分かる気がするんだけど。

「ポケットを叩くと菓子が湧いてくるっていうのがもっぱらの噂だぞ。」
「うわぁ……」

マジシャンかっつの。
そんな歌を昔歌ってた気がする。でもアレはビスケットが増えるんじゃなくてビスケットが砕ける歌だ。
滝本さんはテーブルの上に常に乗っているビンから角砂糖を1つコーヒーに投入して、スプーンを使ってかき混ぜた。

「しかし歯医者ねぇ……流石にもう1人で行けるようにならねぇと恥ずかしいよなぁ?」
「ですよね……子供じゃないんですから。」

同い年の俺ですら歯医者は行けるし。雪路だって行けるだろうに。

「しっかしナナトは人気者だな。」
「え?」
「好かれまくりじゃねぇか?男に。」
「やめてくださいよ……」

男に好かれたって嬉しくも何ともない。
滝本さんはカエルが鳴くような声を出しながら、ゲラゲラと笑った。

(でも何でだろう……)

本当に何で俺ってこんなに頼られてるんだろう?
雪路が頼られるのはまだ分かる。オカマだけどやる時はやるいい奴だから。
だけど俺は?いつも怒ってばっかで何もしてないじゃないか。

(何でだぁぁあ……!)

謎だ。


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