Mr.キューピッド
「な、何で看板が!?」
佑音の言う通り、嵐でもない限り看板なんてものは空を飛ばない筈だ。
確かに風は強いけど大した風じゃないのに……どうして?
(しかも……)
あの看板、明らかにこっちに向かって飛んで来ている。
後ろの佑音を見れば、『おお』とか言って驚いてるだけで……看板が近づいてくるにつれて、目を見開いてカチコチに固まっているし。
上を見上げれば……やっぱり勢いを着けてやって来る大きな看板が。
(嘘でしょ……?)
このままだと明らかに俺達は下敷きになってしまう。
「佑音!!」
俺はカチコチに固まる佑音の手を引っ張って、抱き合うように俺の体に引き寄せる。
スピードを着けて落下してくる為逃げても間に合いそうにないから、俺が看板から佑音を守るしかなかった。
「に……兄さん!?」
咄嗟にした俺の行動に我に返った佑音は、俺の胸に手を当てて俺を剥がそうと体を押す。
だけど俺はそんなことにはお構い無く抱く力を強めた。
「ねぇ!大きな看板が飛んで来たら逃げるんでしょ!?」
俺を怒鳴りつけながら涙目で睨む佑音。
……確かにさっきはそう言った。
だけど明らかにそんなの無理だ。2人で助かろうだなんて……だけど、1人なら助かるから、
「佑音、」
もし、俺がこの看板におもいっきり当たって死んだら……そんなこと考えたくないけど、考えてしまう。
「夕飯しょうが焼きだったらいいな。」
「兄さ……!」
俺の体に被さるように看板は当たって、佑音を抱きしめたまま下敷きになって……
「兄さん!」
俺の世界は黒く染まった。