世界は優しくも残酷で。
カチコチカチコチカチコチカチコチ。
何十年、何百年、それこそ心を持ってしまうくらい長い間、僕は彼女の時を刻み続けた。その中で、いったい彼女は何度僕を捨ててしまいたい衝動に駆られただろう。
彼女にとって、時を報せるモノは苦痛の対象でしかあり得なかった。
それでも彼女が、最後まで僕を側に置き続けたのは━━
「嘘、大好き」
愛しい人から愛しい人への贈り物。“永遠”を刻む時計と名付けられた僕。いつの間にか、ずっと前から、僕は彼だったのだ。
もちろん僕は彼女の美しい髪を撫でることも、優しい言葉を紡ぐもできはしない。
それでも確かに、僕は彼だった。
「━━ありがとう、大好きよ」
終わりまでの狂った時を刻み始めた僕に、彼女が最後に呟いた言葉。
それはきっと、━━。
fin.