little
驚いたまま目を点にしていると、その少年がニコッと笑った。胸の奥で何かが、きゅっと強く結ばった、気がした。
「あのっ…あなたは…?」
片言にになりながら尋ねると、ふ、と息を零して、目を細めた。
「花見胡桃、僕の名前」
「花見、くるみ…?」
「たぶん、春菜ちゃんが頭に浮かばせた名前と同じ。お花見の花見に、胡桃」
女みたいでしょ、と花見胡桃君がクスクスと笑いだした。わけわかんない人だ、この人。
横の僅かな隙間から、走って逃げてしまおうかと思った瞬間、
「おわっ!」
いきなり、手から自転車が離れ、気づいたら、花見胡桃君の手にハンドルが握られていた。
睨み付けてやろうと、顔を上げたら。優しく微笑む君が、
「今から、どっか行こう!」
と手を引いた。思ったより、力が強くて、力の入っていない体が思いっきり前に傾く。
「あはは、危ない危ない」
「ちょっと!?」
そのまま手を引かれ、自転車に跨がった花見胡桃君が、空を指差した。
「さあ、お空見にレッツゴー!!」
お空見ぃ……?
聞きそびれた質問をほったらかしにされて。早く後ろ乗って、と屈託のない笑顔で自転車の後ろを顎で差された。
「ちょっと!花見胡桃君っ」
「胡桃でいいよ。」
「じゃあ、胡桃で――…じゃなくて!」
「ハハハ、ひとりノリツッコミ?」
なんなんだ、こいつは!
自転車を奪い返さなきゃ。
自転車の前方に回りこんで、カゴを両手で押さえ込んだら、上目遣いに
「お願い、今日だけ付き合って」
なんて、可愛く言われて。思わずあたしは頷いていた。
よく見たら、田舎くささが全然感じられないほどあか抜けした美少年だ。純白の透き通る肌で、唯一黒々としたまあるい瞳が主張している。