ドラゴン・テイル【外伝】
□記憶の欠片
蒼いドラゴンは、晴れ渡る大空に溶け込むように舞った。
遙か眼下に、雪に覆われた山を見下ろしながら。高い空を悠々と飛び進む。
昼に出発し空が茜色に染まる頃、山から南下した所に小さな集落が見えてきた。ヴァルザックが、そこに向かって高度を落とす。
集落から少し離れた場所に降り立ち、人間を降ろした。
『ここでお別れだ。無事に帰り着けよ』
ドラゴンの低い声。
「あぁ、本当に世話になった。また会いに来るって言いたいが、どうせその用事とかが終わったら旅に出るんだろ?」
ヴァルザックは背伸びをするように、空に向かって体を伸ばした。広げた翼を合わせると、かなりな大きさになる。
『そうだな。その用事が何なのか俺にも分からんが、どうせすぐ終わるだろ』
人間が笑う。
「何だよ、用事が分かんねぇって」
人間の笑い顔を見て、ヴァルザックも僅かに笑みを浮かべる。ドラゴンの姿では表情は分からないが。
『呼び出されたのだ、同じドラゴンにな。大事な話があるとか……まぁ、お前たち人間にはあまり関係のない事だろう』
自分を呼ぶ、血の騒ぎ。
群れる事のない竜族同士の唯一の通信手段だ。だが、これを使うドラゴンは初めてみる。
「そうか」
呟く人間に視線を移す。
『お前は不思議な奴だ。元気でな。道中で死ぬなよ』
そう言い残すと、ヴァルザックは再び大空へ羽撃(はばた)いていった。
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