ドラゴン・テイル【外伝】

「おぉぉ? なんだこの暗さッ!」

 ヴァルザックが灯りを手に戻って来るなり声を上げた。

 空洞に小さな光が満ちる。

 見えなかった顔が見えて、声だけでしか分からなかった男の姿を確認することが出来た。

 ウルよりも少し高い背にツンツンはねた短いオレンジ色の髪。
 体格は良く、腰のベルトにロングソードを下げ、手には靴が握られている。恐らく剣士なのだろう。何故靴を脱いでいるのかは分からないが。

 男も、驚いた表情でウルを見つめる。

 声にならない言葉を言うように口をパクパクと動かす所は、人間みな同じの様だ。

「クレイグさん、実は……」

 レナが静かにウルの現状を説明する。

 その説明に、てっきり動揺すると思っていたキスティンとレナは、男、クレイグの発した言葉に驚いた。

「あー……記憶喪失か……。
 ま、忘れてるなら仕方ねぇな」

「えぇぇぇッ?!」

「お、驚かないんですかッ?!」

 思わず大きな声を上げた二人は、反響する自分たちの声の大きさに再び驚く。

「いやぁ……だってさ、俺が驚いて戻る訳じゃねぇだろ? 記憶って」

 困ったような顔で言うクレイグに、キスティンは憮然とした表情を向けて呟いた。

「…………私なんか、図書館で大いに叫んじゃったのに……」

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