ドラゴン・テイル【外伝】
□記憶の泉
「良いじゃないですか、別に」
極力明るい声で、レナが言う。
上を向いたまま。今下を向けば、涙がこぼれてしまう。
「良いじゃないですか。だって、記憶無いんですよ? そんな状態でいきなりあんな沢山の敵を前にして「戦え」なんて、無理に決まってるじゃないですか」
驚いた表情で顔を上げるウル。
そんなウルを視界の端に捉えたまま、それでもウルの方を見ることなく、レナは言葉を続けた。
「私達は、ウルさんを戦わせる為にここへ来たのではありません。無くした記憶を取り戻す為に来たんです。戦えようが戦えまいが、そんなの関係無いです」
ゆっくり瞳を閉じるレナ。
まだ泣けない。
泣くのは、全てが終わってから。
自分の気持ちを落ち着けるように、レナは心の中で繰り返し呟いた。
全てが終わったら、その時は……──。
心の中で小さな決意を固めて瞳を開く。
そして、ウルに向かって鮮やかな笑顔を見せた。
「貴方が、「ウル・マーロウ」と言う人間だからこそ、私達は力の限り助けたいと思うんです。だから…、気に病まないで?」
レナの言葉を、少し離れた所で聞いていたキスティンとクレイグの顔にも、小さな笑みが浮かぶ。
丁度その時、辺りの様子を見に行っていたヴァルザックとラーマが戻ってきた。
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