ドラゴン・テイル【外伝】

 両腕を大きく広げ、平行感覚を保ちながら、一歩一歩ゆっくりと進んでいくウルの背中を、全員が固唾を飲んで見守る。

 無音の空間を、ウルは自分の鼓動だけを聞きながら進んだ。

 時折、丸太から「ミシ……ッ」と軋む音が聞こえる。

 その度に息が詰まり、足元に視線が向きそうになるのを堪えた。

 顔を上げる。少し離れた所でラーマが手を伸ばして待っている。

 ─あと……数歩、か……。

 自分に言い聞かせるように、心の中で小さく呟く。

 一気に走り抜けてしまいたい衝動と眼下への恐怖に耐えながら。

 ゆっくりと進むウルの腕にラーマの手が届いた瞬間、全員の口から安堵の息が漏れた。

「あぁぁ……ッ! 緊張したぁ……」

「やったな、ウルッ!」

「よ…、良かった……」

 一気に脱力し、ラーマの足元で座り込むウルに、キスティンとクレイグ、レナが対岸から声をかける。

「次は誰だ?」

 ラーマの発した言葉が、そんな三人の表情を再び強ばらせた。

 落ちた沈黙を破ったのは、レナ。

「わ……、私……ッ。
 私が…、行きます……!」

 僅かに震える小さな声は、無音の空間にはっきりと響き渡った。

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