ドラゴン・テイル【外伝】

 丘の上で、女性が歌っている。
 切なくて、悲しげで……、胸が締め付けられる。

 満天の星空の中に点々と浮かぶ銀色の雲と、眼下に見える街の灯り。

 ─これは……泉で見た映像か……?

 ゆっくりと流れる雲の行き着く先にあるのは、あの街。

 静かに風に乗る音色が、ウルの心に留まる記憶の灯火を優しく燻(くすぶ)る。

 ─あの街は……ザイル……。
 ……竜の加護を受ける町…──ッ!


 刹那、ウルの視界が真っ白になった。
 あまりに突然で、あまりに眩しくて、目を瞑る。


“お? 目ぇ覚めたか?”

 不意に聞こえたヴァルザックの声に、ウルは現実へと引き戻された。

「メシ作って戻ってきたら死んだように寝てて起きねぇんだもんなぁ……。
 まぁ、寝ろっつったの、俺だけど」

 苦笑混じりに言うヴァルザックの後ろでラーマも同じように苦笑を浮かべている。

 ─…よほど爆睡していたんだな……。

 まだ眠たげに下がりそうになる瞼を擦りながら、ウルは姿勢を正すように体を動かした。

「ウル、レナ、食事にするか? 寝起きで食欲は無いかもしれんが……」

 そう言いながら、手に持った皿を顔の高さまで持ち上げるラーマ。

 さらには炒めた野菜ならキノコやらが盛られており、香ばしい香りが部屋に充満している。

 それが、より一層食欲をそそった。

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