ドラゴン・テイル【外伝】

 ヴァルザックは迷った。

 今からあの人間の元へ戻ろうか。

 自分の名前かどうかは忘れているとは言え、聞けば何かを思い出すかもしれない。

 だが、そんな自分の考えに首を振る。

 もう遅い。
 人間はすでに移動しているだろう。

 今更ラーマに言っても同じ事だ。

 こんな暗闇の中で、人間一人を捜すなど不可能に近い。

 明るくなれば、またもっと遠くに行くだろう。もう、捜せない。

 ヴァルザックは、自分の寝床に飛んだ。

 明日、また旅に出よう。

 旅をする内に、いつかまた出会えるかもしれない。

 次いで、ふと人間の言葉を思い出す。



 ¨また旅に出るんだろ?¨



 ──何故、知っている?

 それは、あの人間が記憶を失う前にドラゴンと出会い、話しているから。

 そのドラゴンは、もしかしてラーマではないか……?

 ……もしそうだとしたら……。

 ハッと、ラーマの飛び去った先を見る。

 だが、ラーマの姿はもうどこにも見当たらなかった。

 仕方ないな……。明日また行くか…。

 小さく首を振り、北へ飛ぶ。


 ラーマ……すまない……。


 心の中で、ラーマに呟きながら。

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