ドラゴン・テイル【外伝】

 町の入り口に建てられている門。
 町の入り口から町の中央に続く大通り。

 色褪せていた記憶の影が、鮮やかに輝きだす。

 ─ずっと、探していた場所……。
 俺のあるべき場所……か。

 夢で見た朧気(おぼろげ)な景色などではない。

 見慣れた町並み。当たり前のようにある人の気配。

 記憶をなくしていたなど、まるで夢か嘘だったかのように迷うことなく足を進めて行き、ウルは一軒の民家の前に立った。

 ずっと、探していた瞬間。

 ゆっくりとドアノブに手をかけて扉を開くと、まっすぐ奥へと入って行く。

 ─まるで変わってないな……。

 玄関から奥の部屋へ続く扉まで。
 室内をグルッと見渡したウルは、苦笑を浮かべた。

 物音一つしない部屋の扉の前で深く息を吐くと、静かに押し開ける。

 部屋の奥で眠る、一人の女性。
 何の躊躇(ためら)いもなく暗い部屋へと入り、女性の顔を覗き込む。

 少女のような幼さが残るその寝顔に、自然と笑みが浮かぶ。

 ─久しぶり。待たせて悪かったな。

 心の中で、目の前で静かな寝息を立てる女性、リムレットに呟いた。

 ─ただいま。そして、お帰り。
 リムレット……。

.
< 156 / 160 >

この作品をシェア

pagetop