ドラゴン・テイル【外伝】
雨雲は、国境付近にまで及んでいた。
─これはまたずいぶんとでかい雲だな。
全く途切れる気配の無い雲を見ながら、ヴァルザックは昨日人間を降ろした場所付近を旋回した。
近くにある集落には、人が歩いている気配はない。
─さすがにこんな雨の中では誰も出てこないか……。
はぁっと小さくため息を付きながら集落の近くに降り立つと、人間に化けて集落の中へと入っていくヴァルザック。
民家らしき建物の前に立ち、軽く扉をノックする。
─はぁぁいッ!
中から声が聞こえてきた。
あの人間ではないな。あいつの声はもっと低い。
キィィッと軽い音を立て、扉が開く。
中から出てきたのは、あの人間と同じくらいの髪の長さの人間。
だが、その髪の色は黒い。
黒髪の人間は、ヴァルザックを不思議そうに見つめて「どちら様ですか?」と尋ねる。
違う人間だな……。
黒髪の人間をまじまじと見つめた後、その人間に向かって口を開いた。
「茶色の髪の人間を捜している。
知らないか? この辺りにいると思うんだが」
問われ、黒髪の人間は眉を寄せた。
─何? この人……ここらじゃ見かけないわね……。
それに、探し¨人¨を¨人間¨って言うなんて……まるで自分が人間じゃないみたいな口振り。
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