ドラゴン・テイル【外伝】
─嫌だわ、きっと変質者ね。
黒髪の人間、ラウラは早く話を切り上げようと一言だけ答えた。
「知らないわ。少し前にここに来た人たちがいたけど、もう出て行ったし」
ラウラの返答に、少し残念そうな表情を見せるヴァルザック。あの人間は、やはりもうこの辺りにはいないのだろうか……。
ヴァルザックは礼も告げず、ラウラに背を向けて歩き出した。
立ち去るヴァルザックの背を少しだけ見送り、ラウラは扉の奥に姿を消した。
─さて、どうしたものか……。
民家から離れたヴァルザックは小さなため息を落とした。
今こうしている間も、あの人間は遠ざかっているかもしれない。
雨は若干小降りに変わっている。
─仕方ないな。進む方向はわかっているんだ。上空から探すか。
そう思うが早いか、ヴァルザックの姿が大きくなる。
翼を広く広く延ばし、空へ飛び立った。
黒い雲が立ちこめる空を、南へ。
人間を捜しながらな為、かなりな低空飛行だ。大地の上を、大きな羽音が響きわたった。
遙か前方の街道を歩く二人の人間が、迫り来る羽音に気づき、振り返って驚いた表情を見せる。
よく見ると、二人の間に小さな影。
─ピクシーか。人間と共に行動するとは珍しいな。
驚いた表情のまま、各々(おのおの)の武器に手を伸ばす人間を見下ろしながら、ヴァルザックは攻撃がくる前に悠々と上空から追い抜く。
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