ドラゴン・テイル【外伝】
空は、低い雲で覆われていた。
空の暗さが、森の闇をより一層引き立たせる。
それでも立ち止まること無くラウラは森に入った。暗い場所には慣れている。大抵のモンスターは闇を好むものだ。
森に入って二時間ほど。
ラウラはある影の前で足を止めた。
その影は、明らかに人間のそれ。
─何でここに人がいるの……?
森の暗さに混じっていてよく分からないが、おそらく男。
ぴくりとも動かないその影に、ラウラは足音を消して近づいた。
木にもたれるようにして座り込んでいる男の衣服はずぶ濡れで、先ほどの雨に打たれていたことが容易に想像出来る。
ラウラは、足音を殺したままゆっくり近づき、男の前に身を屈めた。
暗くて見えなかった男の顔は、思っていたよりも若い。
─行き倒れかしら……。
こういう森には付き物の光景。
ラウラにはさして驚きは無かった。
実際、迷った末にモンスターに襲われて命を落とした旅人の亡骸を目にしたこともある。その点、この男はまだ傷付いていないだけマシだ。
ラウラにとって見慣れた光景とは言えないが、それでも取り乱すほどのことでは無かった。
─村の人間かしら……見慣れない人みたいだけど……。
村では見たことが無い顔だ。
それにしても……鳶色の髪……? 何か聞き覚えが……。
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