ドラゴン・テイル【外伝】

『ここから少々西よりに南下すれば、行商人のキャンプ場があったはずだ。
 そこに向かおう』

 思い出したように言うと、ヴァルザックは雲の上を滑るように進み始める。

「行商人のキャンプ場?
 そんな場所があるんだ」

 真っ直ぐに先を見据えて飛行するヴァルザックの手の中から、風になびく髪を手でかき上げて問うラウラ。

『剣士や魔術師などと違って武器を手に戦う事を苦手とする彼らは、旅中、常に夜は街で宿をとるんだが……時々街が遠くて夜までにたどり着けない場合がある。
 そんな時、近くを旅する同じ様な商人達が一所に寄り集まって一晩過ごす。それが各地域に点在する行商人のキャンプ場だ』

「へぇぇ……でも、結局は戦えない人達の集まりでしょ?」

 逆に、モンスターにとっての格好の餌食なんじゃないの?

 そう言いたげなラウラに、ヴァルザックは小さな笑みを向けた。
 ドラゴンの表情は、人間にはいまいち判断が難しいが。

『着けば分かるさ。傷はどうだ? ウル』

「大した事はない。大丈夫だ」

 ウルの言葉に頷き、僅かにスピードを上げるヴァルザック。

 所々に雲の切れ間が見え始め、大地に広がる草原が姿を現す。

 その草原を歩く二つの人影が、雲の合間から見えるブルードラゴンの姿を見上げていた。

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