ドラゴン・テイル【外伝】

「あぁ、俺の知り合いが居るらしいんだ。ひょっとしたら、記憶を取り戻すキッカケがあるかもしれないだろ?
 どうせ通り道なんだし」

 ふむ……。

 小さく呟き、記憶の中の空路を辿(たど)るヴァルザック。

『確かにこの方向から行けばグレイクレイはザイルの手前にある。でも、何故それが分かったんだ?
 思い出したのか?』

 そう言われ、ウルは「思い出したわけではないんだが…」と首を傾(かし)げた。
 自覚は無いが、無意識に土地勘を思い出したのだろうか。

『まぁ良いさ。何はともあれ、記憶を取り戻す情報は多いに越したことはない』

 うんうんと頷くヴァルザック。

 グレイクレイに行けば、全てではなくとも記憶に繋がる何かがある。
 確信ではない。ウルにはそんな「予感」がするのだ。「曖昧」より、もっと確信に近い予感。
 確かめずにはいられない。

 それが、一番の理由。

 ─グレイクレイで、俺は記憶を取り戻せるのだろうか……。
 無くした記憶は、一体どんな物なのだろうか……。

 思い出したいと強く思う反面、不安に思う自分がいる。

 ウルは、小さなため息を落とした。

 そんなウルの心の葛藤を見透かしたかのように、ヴァルザックが笑い声を上げる。

『そんな深刻そうな顔をするな。
 記憶が戻ったら世界が終わるわけじゃあるまいし。自分の記憶だろ?
 何を躊躇(ためら)う必要がある?』

.
< 56 / 160 >

この作品をシェア

pagetop