ドラゴン・テイル【外伝】
人事だからこそ言える第三者の意見。
ウルにはその一言で十分だった。
─そうだな。俺自身の記憶なんだ。
自分が一体誰なのか、自分に何が起こったのか……、思い出したい。
「ヴァル、ありがとう」
小さく呟いた言葉は、ヴァルザックの耳に届いただろうか。
変わらず体全体で風を受けながら、大きく翼を伸ばすヴァルザックを見て、ウルは僅かに微笑んだ。
しばらくの間、ウルもヴァルザックも思い思いに過ごしていたが、いつまで経っても戻らないラウラの身を案じ、ウルが口を開いた。
「……遅いな、ラウラ。
ちょっと様子を見てくる」
キャンプ場へ歩きだそうとするウルを、ヴァルザックが呼び止める。
『いや、俺が行こう。お前休んでろ』
人型になり、キャンプ場へと向かうヴァルザックの背に、「悪いな」と呟き、再び地面に腰を下ろすウル。
ラウラがキャンプ場へ向かってから、もう二時間が経過しようとしていた。
辺りの景色も、だんだんの昼の顔から夜のそれへと変化していく。
自分の影が他の草木の影と同化し形を失っていく様を、ウルはただじっと眺めながら二人が戻るのを待ち続けた。
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