ドラゴン・テイル【外伝】

「──ッ!!」

 ヴァルザックが僅かに顔をしかめると同時に、ウルの手に伝う生温かい感触。

 咄嗟にヴァルザックの肩を放し、自分の手に視線を落とす。

「──血……ッ?!
 おい、ヴァル! 何があったんだ?!」

 見ると、ヴァルザックの肩にはダガーが深々と突き立てられていた。

「あいつだ…あの鳥。
 あれは、フェニーバードって言うモンスターなんだ。あいつに触れた人間は、みんな自我を無くして狂っちまう……。
 絶滅したと思っていたが、まさかこんな所に生息していたとは…ッ!」

 痛みに耐えるような、苦しそうな声。

「フェニーバード……?
 とにかく、こいつを抜こう。座れ」

 ヴァルザックをゆっくり座らせて背中に回ると、ウルはダガーの束を握り、一気に引き抜いた。

「────ッッ!!」

 声にならないヴァルザックの悲鳴がウルに伝わる。

 傷口から、ドクッと血が流れ出す。
 ウルは着ていた上着を破り、二重、三重に折り重ねてから強く傷口に押し当てた。

「一体、誰にやられたんだ? この傷…」

 押し当てる布は、すぐに血液を含んでドス黒く染まっていく。

「よっぽど油断したのか?」

 黙ったまま、痛みに耐えるように瞳を閉じているヴァルザック。

 ウルは辺りを見渡した。

 どうやら、戻ってきたのはヴァルザック一人。他の気配は何も感じない。

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