ドラゴン・テイル【外伝】

「記憶喪失か、やっかいだな」

 ヴァルザックがため息を漏らすが、すぐに気を取り直したように言った。

「ま、その内思い出すだろうよ」

 何気にポンッと肩を叩くと、人間が小さな悲鳴のような呻き声をあげた。

「あ、すまん。怪我してたんだったな」

 恨めしそうに見る人間の視線に、苦笑いを浮かべながら謝罪する。

「お前が動けるようになったら人間の街まで連れてってやるよ」

 そう言い立ち上がると、歩き去ろうとした。

「どこか行くのか?」

 背を向けたヴァルザックに、人間が問いかける。ヴァルザックは少し笑いながら振り向き、
「メシ取ってくる。
 食わねぇとか言うなよ?」

 言い残して、洞窟を出て行った。

 確かに、腹減ったな……。

 立ち去るヴァルザックの背を見送りながら、ぼんやりと思い出す。

 ─俺、何か大事なことを忘れてるな。
 名前も勿論だが、他にもっと重要な…。

 完璧に抜け落ちた記憶を必死に探すが、やはり見つからない。全く分からない。

 はぁっと落とすため息に、少し懐かしさを感じて苦笑した。

 ─ため息が懐かしいとか……記憶無くす前の俺はどんだけ暗い奴だったんだ…。

 目を閉じる。全てが闇に閉ざされた。

 まさに、今の自分自身。

 記憶を取り戻したら、俺はどうするだろう。帰る場所などあるのだろうか……。

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