ドラゴン・テイル【外伝】

 何かが近くに居る気配がする。

 うっすらとそれを感じ取ったウルは、静かに目を開いた。

 背中に、草越しの大地の感触が伝わる。

 ─……俺、何で寝てたんだ…?

 体を起こして辺りを見渡すと、申し訳ない程度に作られた焚き火の上で石鍋がコトコトと音を立てているのが目に入った。

 その焚き火の光に当てられて、静かに目を閉じているブルードラゴン。

「……ヴァル……?」

 寝起きのそれのように、掠れた声で問いかけるウルに気づき、ヴァルザックが目を開いた。

『……そろそろ起きる頃だと思った』

 ゆっくり体を起こすヴァルザックの足下に、一人の人間が横たわっていた。

「──ッ! ラウラ?!」

 その影、ラウラを目にしたウルは転がるように走り寄り、顔を覗き込む。

 ラウラの体は、顔や腕や足や服、至る所に血痕がこびり付いていた。だが、ラウラの体に外傷は無いように見える。

 ウルは、それがラウラの血で無いことにすぐ気が付いた。

 ヴァルザックに視線を向ける。

『……他の者は一応埋葬しておいたが…。
 お前も別れを言いたいだろうと思って、ラウラだけは連れてきた』

 静かに言うヴァルザックの言葉は、もうラウラが目を覚まさない事を暗に告げている。

「……ラウラ…」

 まるで、今にも目を覚ましそうに傷一つ無い顔で横たわるラウラ。

 それが、ウルにはいたたまれなくて、悲しくて、ラウラを直視する事が出来ずに目を逸らした。

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