ドラゴン・テイル【外伝】
その後は何事もなく一夜が過ぎ、翌日、ウルは虫さされに悩まされた。
『だから、俺の背で寝れば良かったのに』
苦笑混じりに言うヴァルザックには答えず、ウルは無言で体を掻き毟っている。
その様子を背中で感じ取りながら、少し呆れたように小さなため息を落とすヴァルザック。
「痒い」
ようやく喋ったウルの言葉は短い。
『我慢しろ。
あの山の中腹から川が見えてくる。下流は深くて流れが速いが、上流なら体を洗い流す程度にちょうど良い』
前方に見える高い山を見るヴァルザックの視線を辿るように、ウルが顔を上げる。
「早く洗いたい」
全身を襲う痒みのせいか、ウルの口数は極端に少ない。
『へいへい、急ぎますよ。
ったく、多分お前くらいだぞ? ドラゴンをアシに使う奴』
グンッと速度を上げるヴァルザック。
今は、そんなヴァルザックの小言に返事をする余裕など、ウルには無い。
一気に山が大きくなり、ヴァルザックの言葉通り、山の中腹辺りからキラキラと水に反射する光が見えてきた。
川の途中に出来ている自然の滝を見つけたヴァルザックは、落下する水によって作られている滝壺の近くにあった大きな岩に着地し、ウルを降ろす。
岩は、ヴァルザックの体重が加わってもビクともしない。丸みを帯びたこの形は、長年の水の流れによって少しずつ削られた結果だろうか。
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