ドラゴン・テイル【外伝】

 人間は、思い出すように渡された器に視線を落とした。

「……山だか丘だかの上から、町を見下ろしていた。雲が流れて、風が吹いて……」

 ポツポツと言う人間に、ヴァルザックは自分用に取り分けた器の中身を口に流し込みながら言った。

「山の麓にある町なんて腐るほどあるぞ。町を見下ろせる位置に丘がある町は……ザイルとか、そこら辺か」

 空になった器をそのまま火にくべる。

「ザイル………」

 未だ少しも手を付けていない器の中身を見続けたまま、復唱するように呟く。

 ─……ザイル………知っているような、知らないような……。

 そこに行けば何か思い出せるだろうか。

 器からヴァルザックに視線を移す。

 それを見たヴァルザックは、人間の視線の意味を察しパタパタと手を振った。

「ダメだ。
 ここからザイルまでなんて、いくら俺がドラゴンでも一日じゃ行けねぇし。
 俺、用があってここに来たんだからな」

 頼む前に断られ、人間は肩を落とした。

「人間の住む所までは乗せてってやる、そこからは自力で行けよ。ザイルはグランドールって国の南端にある」

 その言葉に、人間が僅かに首を傾げる。

「ここは、なんて国なんだ?」

 ヴァルザックは、少し笑みを浮かべて答えた。

「ここは最北の雪国バルダーグ。俺はこの国で産まれた。ヴァルザックって名前も、人間が国名に似せて付けた名なんだ」

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