Last Love
けれど、閉館時間は

迫っているし、

ここで雨がやむのを

待っているわけにも

いかなかった。

それに、今日に限って

折りたたみの傘を

持っていなかった。

「あの……

 どうかされたんですか?」

例の茶髪の彼だった。

「あ…いえ、

 なんでもないんです。」

傘を持っていないだけなら

まだしも、

雷が怖くて出られない、

なんて他人にはいえない。

善彦に電話をしようと思ったが

彼はきっと会社から

出られないだろう。

そんなことを思っていると、

例の彼はもう1人の

女性の従業員に

何か耳打ちをしていた。

「…それより、どうしよ。」

愛は雷のフラッシュが

見えるたび、

ビク、と小さく

体を強張らせた。

「あの。」

「…え…?」

「僕今から帰るんですけど、

 一緒に行きませんか?」

「でも、…。」

「家、遠いですか?」

「多分、ここから

 20分ちょっとくらい…。」

「じゃあ、行きましょ。

 2人で行けば大丈夫です。」
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