Last Love
「愛ちゃん?

 ちょっと、大丈夫!?」

「え…?」

崎本美緒の視線を辿ると、

愛の指からは

真っ赤な鮮血が流れていた。

どうやら、右手に握っている

カッターで

紙を切っていた最中に、

誤って切ってしまったらしい。

「あなた今日変よ?

 …ううん、正確には

 副社長の所から

 帰ってきてからずっと。」

図星だった。

愛は1度悩みはじめると

思考力がマイナスに働くようで、

善彦とあの女性社員の関係を、

悪い方に悪い方に

とらえてしまっていた。

「ちょっと…

 考え事をしてて。

 でも、なんでもないです。

 すいませんでした。」

指先の痛みにも鈍感になるほど、

その嫌な想像が

愛の頭を支配していたということだ。

今まで抱いたことのない

モヤモヤした気持ちに、

愛は戸惑っていた。

「愛ちゃん。」

一旦愛の前から去った崎本が、

ふたたび戻ってきていった。

「あなた、やっぱり今日は

 帰った方がいい。

 部長には私からいうから。」

先ほどから少し頭痛が

していたのもあって、

愛は素直にはい、と答えた。

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