Last Love
愛は会社を出ると、

どこかへ向かっていた。

時計を気にしながら、

タクシーの運転手さんに

珍しく早くして、と

催促しながら。

「……。」

辿りついたのは、

図書館だった。

あと2分で、

閉館時間だ。

愛はそのへんにあったベンチに

腰掛けて、

誰かを待っていた。

もう言わなくても、

わかるだろうか。

そう。彼しかいなかった。

櫻井悠だ。

「……愛、さん?」

待ち望んでいた人物が

出てきた。

「急にきちゃって、

 ごめんなさい。

 迷惑、でしたか?」

「いや、そんなことないです。

 でも…どうして?」

「ちょっと、会いたくなって。

 櫻井さんしか…

 思い浮かばなかった。」

へへ、と恥ずかしそうに

笑った愛を見て、

櫻井も悪い気はしなかった。

むしろ、彼女の弱った姿に

痛みと切なさを感じた。

そしてできるなら、

自分がそれを

拭い去ってやらなければ、と。
< 29 / 44 >

この作品をシェア

pagetop