Last Love
「じゃあ、ここで結構です。」

「せっかくですから、

 お家まで送りますよ。」

「大丈夫です。

 寄りたい所があるので。」

失礼します、と彼女は

善彦の愛車から降り、

彼を見送った。

「……ふぅ。」

善彦と過ごす時間は、

もちろん楽しいのだが、

堅苦しい敬語のせいか、

いつも肩に力が入る。

「……ついた。」

少し歩くと、

灰色の大きな建物が

見えた。

県立の図書館だった。

愛は大学生時代、

よくこの図書館で

勉強をしていた。

図書館の中は

静まりかえっていて、

彼女がシャーペンを

動かす音すら

よく響いた。

―――ウィ-ン…

自動ドアを通り、

愛は小説のコーナーへと

足を向けた。

せっかく”学生”という

縛りから解放されたのだ。

できることなら、

しばらくは

勉強はしたくない、と

愛は思った。
< 5 / 44 >

この作品をシェア

pagetop