コピー
寮は、学校のある建物と隣接する建物の屋上にあるらしかった。
この学校は、やけに屋上が好きだな。
研究室から学校へ来たときと同じようなプロセスを踏み、寮のある建物へと移動する。
先に見えたのは女子寮だった。
やはり屋上は広く、ここから男子寮に行くには結構歩かなければならなかった。
日は沈みかけ、辺りを赤く染めていた。
僕の記憶の中の世界での最後の風景。
実際の世界でも夕焼けは赤かったようだ。
太陽の入射角がどうとかそれによって波長がどうこうするとかで夕焼けが赤くなる、というかなり曖昧な情報が僕の頭の中に入っている。
実際の世界の方でも同じ原理であるかどうかは分からないが。
どうしてそのような知識があるかというのは僕の偽物の記憶では、ふと空の色が何故青いのかが気になって辞典で調べ、それの関連で夕焼けが赤い理由についての記事にも目を通したから、と言うことになっている。
かなりおぼろげにしか理解出来なかったが。
近藤拓郎なら完璧に理解しているのだろうな。
こんなことは彼にとっては常識なのかも知れない。
そんなことを考えながら図を頼りに歩いていると、男子寮が見えて来た。
寮の前には人影があった。
近付くにつれて、それが誰だか分かってくる。知っている人間だった。
小川沙紀…。
本当にストーキングか?
『近藤拓郎』らしく素通りしようとすると、服をつかまれた。
「待って。」
教室でとは異なった声色で言う。
僕は無言で振り返る。
「やっぱり無視しようとするんだ、残念…」
「忙しいから早く放してくれ。」
小川沙紀は服を放そうとしない。
「あーあ、嫌われちゃったのかな…」
何がしたいんだ。