コピー
「少し驚くかも知れないが。」

僕は小川沙紀の顔を見た。

「ある夕方、普通に歩いていた。
そしてその時ふと立ち止まって目を閉じたんだ。
そこまでは何の変哲もない日常だ。
しかし驚くことに目を開けたときには山口先生の研究室にいた。
それも突然だ。」

小川沙紀は黙って聞いている。

「山口先生によると僕は『近藤拓郎』が作った彼のコピー、この世界には元々いなかった存在で、さっきまで歩いていたという記憶は作られた記憶であり、その記憶での出来事は本当はなかったことらしい。
本物の近藤拓郎はどっかに失踪してて、その失踪を隠すためにコピーを作ったのだろう、と先生は言ってた。
山口先生の意見は別だそうだが、コピーはお偉い方の意見により感情を持たないだろうということになってるそうで、僕がコピーだということがバレたらマズい。
そこでバレないために、今は本物の近藤拓郎のフリをしている。
近藤拓郎が帰って来てからのことは分からない。
困ったことにコピーとは言っても、結構なミスで、実際の世界のことはよく分からないし、この部屋を見る限り、僕は近藤拓郎の私生活をほとんど知らない。
成り済ますのはかなり大変だということだ。」



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