コピー
かなり長い間しゃべったので口の中が渇いた。

唾を行き渡らせる。

こんな正直に何もかもをしゃべってよかったのか?

山口先生に対し個人情報をあっさりしゃべってしまったときの反省が全く生きていない。

だがまあ、話さなければ協力してもらうことができないので仕方がないか。

でも、小川沙紀は信用に足る人物なのか?

見たところ悪い人間ではなさそうだが。

会ったばかりの人間を信用してもいいのか?

まあ、『彼は本物の近藤拓郎じゃありません。』と言い触らされるよりはマシか。

だが、それであれば嘘を交えて話すべきだったんじゃないのか。

いや、『複雑な事情があって話すことが出来ないんだ。』とでも言っておけば、きっと小川沙紀ならあまり深入りしないんじゃないか。

小川沙紀ならってなんだ?

いずれにせよ、もう少し考えてから話すべきだった。

軽率だった。

命が掛かっているという実感がいまいち沸かない。

「へ、へぇ…」

小川沙紀が口を開く。

「てっきり、一卵性の双子か何かだと…
コピー…ね…」

小川沙紀も少し驚いているようだ。

やはりここまで話す必要はなかったか。

「私の意見を述べていいかな?」

「ああ。」

小川沙紀は真面目な語調で言った。

「記憶の中のことが本当はなかったことだって言ったけどさ、私はあったことだと思うよ。」


「え?」

今度はこっちが驚いた。

「だってさ、この世界だって、ただ私達が認識しているだけじゃない?
例えばここにベッドがあるけど、触って確かめることができるけど、それは私がそう認識してるだけで、本当にあるかどうかは分からない。
あると言えばあって、ないと言えばないんだよ。
あなたの記憶の中の世界についても一緒。」

自分と言う存在を肯定された気がした。

そして今いる自分を否定された気がした。


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