コピー

「不思議だな。」

「そう?」

小川沙紀は僕を見つめている。

何だ?

少し気まずかったので、二人称を何にしようか迷ってから、

「小川さんはどう思う?
僕の感情の有無に関して。
お偉い方の意見では、僕はただ、人の様に動くだけの感情のない物体であり、人の様に動くので普通の人と見分けはつかない、ということになっているけど。」

結局名前で呼んだ。

この質問はあまりよくなかった。

本人を目の前にして、私はあなたには感情がないと思います、とは言えまい。

「私は…分からないな…
コピーに限らず他人の感情は確認する術がないから。
みんなが『人の様に動くだけの感情のない物体』かもしれないし。
そうではない、と否定することが出来ないもの。
もし、見えるものしか信じない主義、とかで飽くまでそれを貫くのだったら、他人に感情があることを信じていないことになるよね。
見えないものはあるかも知れないし、ないかも知れない。
だからとりあえず感情の有無については分からないと言うことにしておいてもいいかな。」

小川沙紀はまたも意外なことを言い放った。

「あ、ああ…」

これくらいしか言うことが出来なかった。

小川沙紀の考えに則ると、自分からしてみれば、その考えを僕に話した小川沙紀自体に感情がないかも知れないということになる。

信じられるのは自分の感情のみだ。

いや、もしかしたら、小川沙紀なら自分に感情がある、ということすら疑って見せるのかも知れないな。

どのようにしてそうするのかは、全く見当が付かないが。


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