コピー


「理論的に考えて、こうなっているから表や裏だ、と答えたわけではない。
でもね…」

小川沙紀はもう一度コインを振る。

表が出た。

「今表が出たのは理由があると思うの。
弾く力、弾く瞬間に指と触れたコインの面積、また箇所、弾く瞬間に当たった指の箇所、面積はコインの方と同じ。コインの形状、床の状態、周りの気圧、気温…、そういったことが全て同じだったらいつも同じ結果になるんじゃないかな。
もし時間によって違うとしても、この時間にこの様な条件下でこの様なことが起きた場合の結果は一つに予測出来るはず。
このコインの考えを日常生活に持ち込むと、まあ条件を全て観測するのは無理な話だろうけど、条件が分かれば、どのようなことをするとどのようなことが起きるかということが完璧に予測出来る。
誰がどう思うのか、とかいう意思もね。
脳内でこんな反応が起きたから、この様なことを思う、っていうのは分かるんじゃないかな。
道端に落ちている石を少し動かしたり、ある場所に1秒間長く立ち止まったりするだけで、条件を変え、ランダムを調整し、世界を操れるかも知れない。
そう言う小さい差異が周りに変化を与え、影響を受けたもの同士が互いに影響しあい、どんどん増幅されることによって、結果、大きな変化をもたらす。
つまり、世界を動かせるかも知れないということ。
しかし、変化とは何と比べての変化なのだ、という疑問が生まれる。
石を動かす場合と動かさない場合とでは前提条件が異なっていなければならない。
世界は様々なルートに分岐しているわけでなく、あるルートではそうなるための前提条件があり、違うルートになるには前提条件から異なっていなければならず、一本道である。
石を動かした世界では、元々石を動かすことが決まっており、石を動かさないということはありえなかった。
よって石を動かさなかった世界は元々違う世界であり、石を動かした場合との純粋な比較が出来ない。
しかし、ここで、ある矛盾が生まれる。」

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