加納欄のホワイトデー シリーズ9
「欄」

「はい?」

大山先輩が、突然立ち止まって、あたしの方へ振り向いた。

「な、なんです?」

あたしは、少し驚いて、大山先輩を見た。

「悪かったな」

「え?何がです?」

「何がって、まぁ、記憶無くしてた時に、いろいろ迷惑かけたしな」


今、謝ること?


「わ、私に、謝る必要なんて、ないですよ。紹介してもらった女の子に、謝ったらどうですか?あんなにお見舞いに来てたのに、2人とも連絡とるのやめちゃったそうじゃ、ないですか」

「な、なんで知ってるんだよ。あれは、オレが頼んだんじゃないって。苫利が、暇だろうから紹介するって、無理矢理だなぁ」

大山先輩が、言い訳を始めた。

「へぇ、苫利先輩が」

「そ、そうだよ」


なんで、わざわざバレる嘘をつくんだろ。


「記憶がある時と、ない時に1人ずつ、紹介してもらったんですねぇ。よかったじゃないですか、紹介してもらって」

「なんだよ、その言い方」

「何がです?」

「あ、もしかして焼きもちか?」

「は、はぁ~?焼きもちぃ?なんで、焼きもちやくんですか。勝手なこと言わないでください」

半分……いや、ほぼ図星を言われ、なんとか、体面をとりつくろうとした。

「なんだよ、焼きもちかよ」

「ち、違いますってば!大山先輩の!……」

言いかけて、止めた。

「……なんだよ」

「……イエ」

あたしは、壁に寄りかかった。

大山先輩と、向かい合いになる。

少し、沈黙になった。

話すこともなく、あたしは、うつむいてしまった。

「欄……ホ、ホワイトデーさ」

一瞬耳を疑った。

「ホワイトデー?」

「す、過ぎちまったけど……」


確かに、過ぎてますけど……。


「ホワイトデーって……あの、過ぎてるし、気にしてないですよ」

そりゃ、毎年、義理でホワイトデーいただいてるけど、今年は、大山先輩が、ああなっちゃったから、期待なんてしてなかった。

記憶が、戻っただけで、じゅうぶんだったのに。


まさか。


何か、用意してくれた……とか?


「欄」


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