加納欄のホワイトデー シリーズ9
「言ったでしょ。熱を計っただけだって」

祥子先輩が、一生懸命説明してくれる。

「いや、違うんですっ」

「何が違うのよ」


……違わないか。


あ~もぉ(>_<)


「祥子先輩、すみません!仕事まだ残ってるんで、失礼します」

「あ、こら!欄!」

あたしは、そそくさと逃げた。

あたしは、大山先輩の記憶が戻ってから、確かによそよそしくなっていた。


記憶が戻ったことは、嬉しかったよ。


あたしのことを、好きになってくれたんじゃ、ないの……?


だから、キスしようとしたんじゃないの?


なのに、どうして?


どうして、いろんな女の子に声をかけるの?


祥子先輩は、何にもないって、言ってくれたけど、苫利先輩が邪魔しに入って来た時の、とっさの態度……。


それに、女の子まで紹介してもらっちゃって。


なんで……あんな……キスしようとしたの……。


あたしのこと、何とも思ってないの?


キスしようとしたってことは、あたしのこと、好きってことじゃ、ないの?


なんで、あたしのこと、思ってくれてるのに、紹介してもらうの?


あたしの頭の中は、こんなことを、ずぅ~っと、繰返し繰返し考えているだけだった。


「ん。おい、欄!」

大山先輩が、近くまで来て、声をかけていた。

「おいっ!」

「あ、はいっ!すみませんっ!」

謝ったが、目線はすぐに、外してしまった。

「柿野町の聞き込み終わったのか?」

「まだです。神田まで終わりました」

「今日中に、終わらせろよ」

「……はい」

「手掛かりは?」

「今のところ特に何も」

「柿野は、任せたからな」

「……わかりました」

あたしは、フラフラしながら、歩いていこうとした。

「欄」

大山先輩に、呼び止められた。

「はい?」

壁に寄り掛かって返事をする。

「あ、いや」

「何か?」

「この前の……いや、何でもない」

「大山先輩」

「ん?」

「……好きでもない人と、キス、しますか?」

「え?」

大山先輩は、すぐには答えなかった。


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