加納欄のホワイトデー シリーズ9
高遠先輩も、あまり気にもとめず、ゴミを取ってくれた。

「すみません……」

「いや、どうか、したのか?顔色が悪いぞ」

高遠先輩が、タバコを加えた。

「あ、いえ」

あたしは、平静をよそおって笑った。

「何でもありません。さ、仕事仕事」

あたしは、何事もなかったかのように、自分のデスクに向かった。

「欄ちゃん。今日どお?」

祥子先輩が、どら焼を差し入れしてくれながら、あたしの隣に座った。

「ありがとうございます。どおって?」

「飲みよ」

ドキッとした。

「の、飲み、ですか?」

「ムリに飲まなくていいわよ。ただ、1人じゃ、ロクな物食べてないでしょ。だから、栄養あるもの食べようよ」

「そ、そうですね……」

「決まり。最近開店した店があんのよ。そこでいい」

「はい」

「じゃ、後でね」

祥子先輩は、吉井さんと署を出ていった。

「よぉ、元気だったか」

懐かしい、聞きなれた声が聞こえた。

あたしの、心臓がドキンドキンする。


大丈夫。


大丈夫。


見れる。


いつも通り、今までと同じように……。


「欄?どした?」

大山先輩は、いつになく、優しく語りかけてくれる。

「いえ、何でもありません。おはようございます」

あたしは、思いきって大山先輩を見た。

大山先輩は、あたしを優しく見ていた。


マ、マブシイッ!


「具合、悪いんじゃ、ねぇのか?」

「いえ、違いますっ。元気ですよ」

「……なら、いいけどな……今日、行くのか?」

「え?」

「飯」

「あぁ、はい。行く予定です」

「そっか。ま、ムリすんなよ」

大山先輩は、課長に呼ばれて行ってしまった。

泣きそうになった。

真っ直ぐ、大山先輩を見ることが辛かった。


大丈夫。


あれしきのこと。


大山先輩を見ることが出来たんだから。


笑うことが出来たんだから。


大丈夫。


まるで、呪文のように、繰り返していた。


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