続きは、社長室で。
破鏡の、始まり。
婚約者という現実を、目の当たりにしてしまって。
私の心はいつになく、ザワザワと蠢いて(うごめいて)いた。
まさか本当に、婚約者がいたなんて――
拓海の言葉を、信じていなかったワケじゃない。
ただの希望であって、願い続けていただけのコト。
何処に祈ろうとも、届く訳のナイ未来を――
「あ、自己紹介がまだだったわね!
私は、立川 佳奈子(タチカワカナコ)です。
蘭さん、どうぞ宜しくね――?」
「あ…、こちらこそお願い致します…」
思いきり、社交辞令の言葉を返した。
宜しくなんて、出来るワケがナイのに・・・
後藤社長と幼馴染みというコトが、何かの因果を匂わせる。
結婚を断わろうにも、ムリだという理由にも気づいた。
完全に離れるコトが出来ない環境だから・・・
「フフッ、畏まらないで良いのに!
蘭さんと私は、同じ歳なのよ?」
そんな心情を察したのか、笑みを浮かべた彼女。
「あ、・・・ハイ」
勝ち誇ったように見えて、さらに萎縮していく。
私は日陰の女で、彼女は太陽という比喩がピッタリだね。
拓海の隣を歩く権利を、突きつけられると・・・