花火
「あ、俺さすがにもう行かなきゃ。ダチが探してるわ。夏花ちゃんは?」
「あ…私は…うん、帰ろうかな」
こんな時、アケミなら『まだ行かないで』とか『もう少し一緒にいて』とか素直に言えちゃうんだろう。
私は、携帯の番号さえ聞くことができない。
「んじゃね」
樋口さんは歩いてきた方向と逆向きに歩き出した。
ここで私が彼を引き止めたら何かが変わるんだろうか。
ここで私が彼を引き止めなかったら、今までと何も変わらない日常が続いて行くんだろうか。
私は小さな一歩を踏み出すのが精一杯だった。
「あの…ッ」