花火


体もあったかかったんだけど、胸の真ん中が。


寂しさの隙間にしっかり染み込んだ。


「夏花、なんかあったの?

元気なくないか?」


「…お父さんとケンカした」


「しょぉがねぇなぁ」


私が落ち込んでいるときはいつもそう言って暖かい胸に私を引き寄せてくれた。

しばらく抱きしめたあとに隼人はいつも頭をやさしくなでながら私をのぞきこむ。


「なっちゃん、機嫌直った?」


“あの”あと、私は何を失ったんだろう。


そう、この暖かい腕。眼差しに言葉。


そして何より暖かい彼の存在自体。


もう二度と彼には会えないのかな。


そうだよね。


もし私が彼の立場なら、もう二度と会いたくない。


顔も見たくない。


思い出したくもない。


愛していた事実なんて掻き消したいくらいに、嫌悪してしまうだろう。


隼人、私なんかに愛されて、かわいそうだね…。


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