キミヲモイ。
キッチンの先にあるリビングに視線を向けると、黒い綺麗なもの。
「ピアノだー!」
行き来自由といっても、僕は別に修二の家に用は無かったからあまり来たことがない。
久しぶりに見たピアノ。
昔とは何も変わりなく、修二のお母さん特製のカバーがイスに敷いてある。
僕は懐かしいピアノに遠慮なく近づいていく。
ピアノの蓋は開いていた。
「僕ん家来るまで弾いてたの?」
ピアノをやっていたことは知ってたけど、あまりその姿を見せてもらったことはない。
今も弾いてるんだったら、久々に聞いてみたいし。
「もう弾いてへんよ。ピアノやめたんもん」
修二はそう言って、真ん中にあるソの鍵盤を一定のリズムで長めに押す。
その白いブロックに触れる指先は、今にでも壮大な音楽を奏でそう。
修二のポケットに閉まったままの左手は、きつくジャージを掴んでいた。