【短編】THE EXPRESS
「シホ…ちゃん……」
彼に気付かれたと思ったら体が止まった。
なんで?
私が会いたかったのに、
なんで私は止まってるの?
会って、何を話せばいいの?
――コッコッ……
近づいてくる、彼の足音。
私はただ待つ事しかできない。
私の前で、止まった。
「あのさ…これ」
「あ……CD」
「この前って言っても結構前だけど、貸すって言ったから」
「ザ グレイシア エクスプレス……」
「使わなかったら親父に返してくれていいから。じゃあね…」
ケンヤくんの足が動いた。
私がいるのとは反対方向に歩いて行った。
走れば近づけるのに、まだ間に合うのに体は動かない。
ただ涙でぼやけた後ろ姿を見てた。
これが最後かもしれないのに。