レンズのその先に【完】
『あ、あの…』
「この眼鏡、ちょうだい」
わざとのように男が眼鏡をかける。
これまた有無を言わせない、そんな笑顔で。
でも、そう易々とあげるわけにはいかない。
大事な、大事なモノだから。
『それは、できません。大事な、モノなんです』
目を見て言うことはできなかったけれども、かろうじて顎の先を視界に入れることはできた。
返してもらえなかったらどうしよう…と、気持ちばかりが焦っていく。
『お願い、します…』
さっきまで好き放題喋っていたくせに、何も言わないこの空気が重くて、痛くて、もう目を開けてられなかった。