レンズのその先に【完】
「じゃあ…」
『…失礼、します…』
何かいいかけていた気がするけれど、あたしの耳には入ってこなくて、もうこの場にいたくなかったあたしは逃げるように店を出るしかできなかった。
焦りすぎてお金払うのを忘れてしまったけど、仕方がない。
ただでさえ見知らぬ男と二人っていう状況に慣れていないのに、あの空気…あたしに堪えられるわけがなかった。
眼鏡のないあたしは家までの道をずっと俯いていることしかできなくて、頭の中は眼鏡のことでいっぱい。
簡単に諦めてしまった自分に腹がたち、その日の夜はひたすら泣くことしかできなかった。
たかが眼鏡に、って思われるかもしれない。
それでもあたしには宝物のようなものだったんだ…。