レンズのその先に【完】
『あの日、あたしだって知ってて、声かけたの…?』
「あたりまえ」
頬へと落ちてくる彼の指は、紛れも無い彼の温もりを与えてくれて。
まだ聞きたいことはたくさんあるのに、声になることなく、空中に消えていく。
もう彼を感じることしかできなかった。
「俺の名前、覚えてますか?佐藤香苗さん」
『ゆうっ…、菅原、優斗くんっ』
涙で歪んだ視界の向こうに、笑ったユウの顔がぼんやりと見えたかもしれない。