レンズのその先に【完】
「わざわざ席取ってくれてたんだ」
『……』
「待たせたこと怒ってるの?なぁ」
『…わっ!?』
いきなり読んでいた本が手から抜き取られ、反射的に顔をあげる。
そこには、おそらく昨日の泥棒であろう男が座っていた。
「聞いてた?」
『あ…すみません。いつ、いらしたんですか…?』
突然の男の登場と、緊張とで語尾が小さくなっていくのがわかる。
少しの笑い声が聞こえてきたこともあって、ただでさえ俯き加減であったあたしの頭はテーブルに付くんじゃないかってぐらい下を向いていた。