誰かが奏でる旋律(ストーリー)【短編集】
「けっ……お前に手を握られて死ぬか………悪くないかもな」

「変なこと言ってんじゃねぇよ!」

「なぁ………俺達、上京すれば、全ての夢が叶うと思っていたよな」

「…………あぁ」

「あんなちっぽけな田舎にいたんじゃ、夢は叶わないと思っていた……だから二人で上京して、世界一のプロサッカープレイヤーになろうって……言ってたよな」


 その通りだ───

 けど、結局、それは───


「はは………見ろよ、あれ……そっくりじゃねぇか」


 力なく笑いながら、コイツは海辺の方向を指差した。

 真っ赤な夕日。

 コイツの言う「そっくり」の意味がすぐにわかった。

 あの日、俺が上京する日、フェリーで俺が旅立つ時にコイツが見送りに来て、一緒に見た景色にそっくりなんだ……


 空を紅く染めるそれは未来への希望にも見えたのに………


「最後に………いいもの見れたぜ」


 その手が、ガクッと落ちる。

 俺は、相棒の名を叫んだ。



【五曲目 完】
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