レインブルー

「なあ。上がってもいいか」


えっ、と黒井は体を起こす。

その目は泳いでいた。


「いや今は…、ちょっと」

「先客か」

「そういうわけじゃないけど」

「じゃあ…」


と中へ入ろうとする俺に、黒井は声を荒げた。


「だめだ!」


どちらかと言うと温厚な黒井が珍しく怒声を出したことに驚いて、俺は思わず瞬きを何回か繰り返した。

黒井は慌てたように笑顔を繕う。


「ごめん。今はマジでだめなんだ」

「ふうん…」

「マジごめんな」


それから黒井は何度も謝っていたが、俺は腕を組んでふてくされていた。

今まで断られたことは一回もなかったのに。

こいつの家になんかヤベえもんでも置いてあんのか?

男にとったらヤベえもんなんてエロ本ぐらいしか思い浮かべねえけど、別に今さら恥ずかしがるもんじゃねえし。

真夏でもないのに黒井の額は汗で滲んでいた。
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