レインブルー
「一つだけ聞いていいか」
「えっ」
「お前って女兄弟いたっけ」
「いや…」
「じゃあそれ母ちゃんのか」
何の話か汲み取れない黒井は俺の顔をじっと見て首を傾げていた。
「あれだよ、あれ」
そう言って俺はずっと気になっていたそれを指差した。
「お前の母ちゃん、随分洒落た靴履くんだな」
黒井の泥臭いシューズが何足も並べられた中で白いエナメルのハイヒールだけが丁寧に磨き上げられている。
俺がさっき抱いた妙な違和感はそのハイヒールかもしれない。
黒井の母親と何回か顔を合わせたことがあるが、ごくたまに行事に来るときもいつもTシャツにジーンズとラフな格好でとてもハイヒールを履くような人には見えなかった。
「あ、ああ」
黒井は頷いた。
その口元が引きつっているように見えたのは俺の気のせいだろうか。
「黒ーーー」
「それあたしのだよ」
俺の声を遮るようにして突然現れたのは篠田だった。