レインブルー
ふと、あたしは思い出した。
七瀬先生の薬指に藤木先生とお揃いの指輪がなかったことを。
「順調だったんじゃないですか?」
藤木先生は無言で力なく笑う。
その横顔があまりにも切なくてあたしの胸の高鳴りは大きくなっていく一方だった。
「何かあったんですか?」
やっぱり藤木先生は何も答えない。
「二人は好き合ってるんじゃないですか?」
ホースから流れる水しぶきが止まった。
見上げると藤木先生はいつの間にかあたしをじっと見下ろしていた。
「好きな気持ちだけじゃやっていけないこともあるんだ」
あたしにはよく分からなかった。
好きな気持ちがあればなんだってできるのに。
あたしがそう言うと、藤木先生は
「篠田も大人になったらきっと分かる」
と答えた。
それならあたしは大人になりたくないと思った。